民事再生(個人再生)

個人再生における清算価値保障の原則が大切な理由は?

個人再生には清算価値保障の原則というルールが貫かれています。

清算価値保障の原則とは「再生計画案に記載した弁済比率が破産における配当率以上でなければいけない」決まりのことを言います。ただ、この説明で理解できる一般の方は少ないでしょう。

簡単に言うと、債権者の取り分を確保するためのルールなのですが、今回はこの再生手続きにおける清算価値保障の原則について、具体例を交えながら説明したいと思います。

若干ややこしい制度ではありますが、清算価値保障のルールがあることで、再生手続き後の返済額に大きな影響が出ます。個人再生を理解するうえでは押さえておきたい原則です。

目次

個人再生における清算価値保障の原則とは?

法律の条文には書かれていないものの、個人再生には清算価値保障の原則という大切なルールがあります。

清算価値保障の原則とは、

「再生計画案に記載した弁済比率が破産における配当率以上でなければいけない」

このような決まりのことを言いますが、おそらくこの説明だけでは何のことか分からないというのが一般の方の感想ではないでしょうか。

しかし清算価値保障の原則は再生手続き後の返済額に大きな影響を与えます。このルールがネックとなって個人再生が上手くいかなかったり、破産をせざるを得なくなったりすることすらあります。

それゆえ清算価値保障の原則は個人再生をするうえでは、必ず知っておく必要があるのです。

清算価値保障の原則を理解するためには、用語の説明よりも具体例で学んだほうが頭に入りやすいです。以下の具体例に沿って考えていきましょう。

清算価値保障の原則が問題になる具体例

例えば、以下のようなケースがあったとします。

  • 個人再生の相談者Aさん
  • カードローンの債務総額:6社で600万円(毎月の返済15万円)
  • 住宅ローンの残額:2,000万円
  • Aさん保有の財産総額:250万円

Aさんは600万円のカードローンの返済を抱えています。 住宅には妻と子供も住んでおり、簡単にマイホームを手放す気にはなれません。 自己破産はせずに何とか借金の解決をしたいと望んでいます。

ここで個人再生の出番です。

個人再生(住宅資金特別条項付き)が認められれば、住宅ローンはこれまで通り支払いつつ、カードローンの元金を大幅に減らせる可能性があるからです。

さて、このケースでAさんが個人再生を利用した場合、毎月の返済額はどの程度まで減らすことができるでしょうか。

この点、個人再生をした場合における手続き後の返済額を知るには「計画弁済総額」を算出する必要があります。

個人再生における計画弁済総額とは?

個人再生における「計画弁済総額」とは、手続き後に返済しなければならない借金の合計金額のことを言います。

そしてこの計画弁済総額によって、個人再生手続き後の毎月の返済額が決まります。毎月の返済額は軽いにこしたことはないので、計画弁済総額は少なければ少ないほど有利になります。

では、この計画弁済総額はどのように算出されるのでしょうか。

基本的には以下の「最低弁済額」が基準になります。

最低弁済額の基準

最低弁済額の基準は以下の通りです。

債務総額(住宅ローンは除く) 最低弁済額
500万円以下 100万円
500万円〜1500万円以下 債務総額の5分の1
1,500万〜3,000万円以下 300万円
3,000万円〜5,000万円以下 債務額の10分の1

この基準に照らしあわせると、Aさんの借金の総額は600万円ですので、債務総額は5分の1となりますね。

600万円÷5=120万円です。

先ほど「基本的には」最低弁済額=計画弁済総額となると言いました。

この120万円を「計画弁済総額」と扱えば、Aさんは120万円の借金を3年かけて返済していくことになりそうです。

120万円の3年払いだと月額3万4,000円ほどになります。

Aさんの給料は不明ですが、手続き以前に毎月15万円払っていたのと比べれば雲泥の差です。

3年間毎月3万円弱をコツコツ返済して行けば、借金もゼロになり、かつマイホームも守れるわけですから、Aさんの家庭にとっては万々歳でしょう。

しかし、このAさんの事例には落とし穴があります。

そしてこの落とし穴の理由にこそ冒頭で触れた「清算価値保障の原則」が関係してくるのです。

最低弁済額と清算価値保障の原則の関係

個人再生における「計画弁済総額」とは、手続き後に返済しなければならない借金の合計金額のことを言います。

そして、この画弁済総額は「最低弁済額」が基準になって決まるのが多くの場合です。(弁済額の算出の仕方は上記に載せた表の通りです)

しかし計画弁済総額の決定にはもう1つ基準があって、

最低弁済額と清算価値を比べて「高い金額のほう」が計画弁済総額になる

というダブルスタンダードになっているのです。

(給与所得者等再生では、さらに可処分所得の算出も求められトリプルスタンダードになりますが、給与所得者等再生の利用頻度はごくわずかなのでここでの説明は割愛します。)

したがって、最終的な返済総額の決定には、最低弁済額のほかに「清算価値」の金額も加えて算出する必要があります。

それではAさんの清算価値の金額はいくらなのでしょうか?

清算価値の金額によって、Aさんの個人再生の行方は変わります。

個人再生における清算価値とは?

個人再生における清算価値とは、大雑把に言うとその人が保有する資産の合計金額です。

分かりやすい例でいうと、預貯金、株式、車あたりが資産に該当するでしょう。

清算価値の算出方法の詳細は後述しますが、とりあえず清算価値=債務者の保有財産と考えておいて大丈夫です(あくまでも債務者の財産なので子供や妻名義の財産は含みません)。

今回の具体例でいうとAさんが保有する財産の合計は250万円でした。

するとAさんの清算価値は250万円ということになります。(*管轄裁判所によっては自由財産を考慮して250万円から99万円引いたものを清算価値とするところもあります)

最低弁済額と清算価値をくらべて、高い金額のほうが計画弁済総額になるのでしたね。

とすると、Aさんの計画弁済総額は、最低弁済額を基準とした120万円ではなくて、それよりも高い250万円になります。

Aさんは250万円を3年かけて返済することになります。

200万円の3年返済だと約7万円になりますので、先ほど最低弁済額で算出した数字と比べてかなり厳しくなりました。

毎月7万円を払えないのであれば、裁判所にお願いして返済期間を最長の5年に伸ばしてもらうか、それがダメなら個人再生自体を諦めることになるでしょう。

Aさんにしてみれば、清算価値以上の金額の返済を要求する清算価値保障の原則のおかげでかなりの痛手を被ることになります。

清算価値保障の原則は、今回のAさんのような債務者にとってみれば憎らしい存在です。では、なぜそのようなルールが個人再生では求められているのでしょうか。

個人再生で清算価値保障の原則が求められる理由は?

債務者からすれば酷な結果を招きかねないのが清算価値保障の原則です。ではなぜ個人再生ではこのようなルールが貫かれているのでしょうか。

その理由は債権者の取り分を考えれば理解できます。

個人再生は破産と違って借金がチャラになりません。いくらかは債権者に返すことになるのです。その意味では、債権者にとってもお得な制度と言えます。

しかし、本当にそうでしょうか?

仮に今回のAさんが破産をした場合を考えてみましょう。

Aさんには250万円の財産があることが分かっています。破産するとは言え債務者にそれなりの財産があるのなら、それらの財産を換金し少しでも債権者に返すのが常識的な感覚です。

実際、破産手続きをするとAさんが保有している財産は強制処分・換金がされて、各債権者への返済に充てられます。Aさんが破産をしても債権者らは250万円(厳密には自由財産として99万円ほど引かれます)を取り分として確保できるのです。

にもかかわらずAさんが個人再生を選択し、最低弁済額である120万円を返済しますと言えばどうでしょうか。破産してくれたほうが取り分が多くなることを理由に、納得しない債権者もでてくるはずです。

このように債務者が破産を選んだ場合と個人再生を選んだ場合で、債権者の取り分に違いがないよう調整するのが清算価値保障の原則の目的です。

「再生計画案に記載した弁済比率が破産における配当率以上でなければいけない」とは、つまりそう言うことです。

なお、個人再生には破産のように財産処分の決まりがないため、個人再生をして持てる財産に制限はありません(車など住宅以外で「ローンの残っているもの」は除きます)。

とはいえ清算価値保障の原則により、持っている財産が多ければ、その分だけ返済総額上昇のリスクが付きまといます。

清算価値の算定方法

最後に清算価値の算定方法について簡単に触れておきます。

清算価値とは大雑把に言うとその人が保有する資産の合計金額です。

しかし、個人再生の清算価値には一般的には財産だと思わないようなものも財産に含まれるので注意が必要です。

個人再生において清算価値に含む財産の代表例は以下です。

  • 預貯金
  • 退職金見込額
  • 貸付金
  • 積立金・有価証券
  • 保険解約返戻金
  • 自動車
  • 不動産(評価額)
  • 貴金属などその他高価品

借金に困っている人が財産なんてあるわけないと思うかもしれません。しかし個人再生をするにあたっては、本人が思っている以上に財産を保有していることが多々あるのです。

実務では、住宅の価値や退職金見込額がネックとなって予想以上に清算価値が高くなってしまうことがたびたび起こります。

以下、重要なポイントに限って解説します。

退職金見込額について

現時点(退職時じゃない)で退職した場合の退職金額の原則8分の1が清算価値に含まれます。勤続年数が長めの公務員や大企業のサラリーマンは多額になりやすいので注意が必要です。

保険解約返戻金について

現時点(満期時じゃない)で保険を解約した際に払い戻されるお金も清算価値に含まれます。終身保険や養老保険、学資保険が代表例です。長年加入していた人は多額になりやすいです。

自動車について

現時点での査定価格が清算価値に含まれます。ローンが残っている自動車は基本的に本人の所有ではないので清算価値には含まれません。ローンが完済している車が対象です。なお、ローンが残っている自動車は個人再生をすることで引き揚げになることがほとんどです。

不動産について

現時点での不動産の定価格が清算価値に含まれます。ローンが終わっている所有不動産のみならず、現在住宅ローン支払い中の住宅も清算価値に含まれるので注意です。ただし、住宅の査定価格がまるごと清算価値に含まれるのではなく、査定価格から住宅ローン残高をマイナスした金額が清算価値に含まれます。

今回のAさんの住宅ローン残高は2,000万円なので、例えば査定価格が2,100万円だったら清算価値に100万円が上乗せ、査定価格が1,900万円なら価値無しとして清算価値0円になります。個人再生をするうえでは、住宅の価値が高いほど不利になります。

清算価値保障の原則における清算価値算定の基準時期は?

財産やものの価値は日々変わっていくものなので、どの時点を基準として清算価値を決めるのかという問題があります。

この基準時期にはいろいろな解釈があるので一概には言えませんが、再生計画認可決定時、つまり手続きの後半あたりを準時期とするのが一般です。

基準時が後半にある以上、清算価値の上昇(=返済額の上昇)を防ぐためにも、手続きはなるべく早く進める必要があります。

清算価値保障の原則のまとめ

個人再生には、清算価値保障の原則が貫かれています。

個人再生で清算価値の保障の原則が求められる理由は、債権者の取り分を確保する必要があるからであり、このルールを適用することで、個人再生ではなく破産をしれくれたほうが取り分が増えたかもしれないという、債権者のジレンマを解決することができるのです。

債務者に立場からすると、清算価値保障の原則が求められることによって、思ったよりも債務額が減らないという結果が起こり得ます。したがって個人再生を利用する際には、債務者の財産価値をしっかりと把握することが大切になってくるのです。

弁護士法人きわみ事務所
代表弁護士 増山晋哉
登録番号:43737

昭和59年大阪府豊中市生まれ。平成21年神戸大学法科大学院卒業後、大阪市内の法律事務所で交通事故、個別労働紛争事件、債務整理事件、慰謝料請求事件などの経験を積み、平成29年2月独立開業。

きわみ事務所では全国から月3,500件以上の過払い・借金問題に関する相談をいただいております。過払い金請求に強い弁護士が累計7億円以上の過払い金返還実績を上げていますので、少しでもお困りのことがあれば無料相談をご利用ください。

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